福岡家庭裁判所 昭和40年(少)2299号 決定 1965年8月06日
少年 I・S(昭二四・四・一九生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
押収してあるクローム側腕時計一個(昭和四〇年押第二六九号の一)茶皮財布一個(前同号の二)、現金一八七円(前同号の三)、ドライバー二個(前同号の四)はいずれもこれを被害者に還付する。
理由
(非行事実)
少年は
1.別紙犯罪一覧表<省略>記載のとおり単独又は共犯者と共謀の上、昭和四〇年四月○日から同年五月○日までの間三一回にわたり福岡市○○町○丁目○番地○○寮内ほか二四カ所において○磯○志ほか二六名所有の替ズボンほか一三八点(時価二八万六、九六〇円相当)、現金九万五、九〇〇円を窃取し、または窃取しようとして物色したがその目的を遂げなかつた。
2.福岡市○○町○丁目○番地○○寮内の父Rの許から○村製作所に通勤稼働していたところ、昭和四〇年七月○日、家出すると共に無断欠勤して徒食放浪し、その性格環境に照し将来罪を犯す虞のある少年である。
(適条)
1.刑法第二三五条(なお番号一七、二一ないし二六、二八ないし三一についてはさらに同法第六〇条、番号一九、二三、二四、二七、三〇についてはさらに同法第二四三条)
2.少年法第三条第一項第三号
なお、送致事実中昭和四〇年四月○○日A、Bと共犯の現金二、〇〇〇円の窃盗及び窃盗未遂の二件は証明不十分であるから非行の認定をしない。
(処遇の理由)
少年は幼児期に母と死別し、祖父母方と実父方との間を転々としながら生長し、小、中学校在学中も数回の転校を余儀なくされ、その間に放浪癖、窃盗癖を身につけてしまつた。昭和四〇年二月二六日当裁判所において保護観察の処分を受け、同年三月中学校を卒業し、父の許から通勤できるよう保護観察所の取計らいにより保護司である○村○美氏経営の○村製作所の溶接工として就職することとなり、同月一九日から出勤したのであるが、同年四月○日及び同月△日には、同じ寮に住む他人方においてひそかに本件犯罪表番号一二の非行をおかし、同月×日からは無断欠勤すると共に同月□日まで家出してその間本件犯罪表番号三ないし六の非行があり、同日近隣徘徊中を父に発見つれもどされ保護司、警察官の説諭の上引続き在宅就労していたところ、同月○○日及び△△日再びひそかに本件犯罪表番号七ないし九の非行をおかし、さらに同月××日からは無断欠勤すると共に家出し、本件犯罪表番号一〇ないし三一の非行があり同年五月△日ごろ保護者に無断で友人三名と共に上京し保護司が上京して連れもどすまで帰宅せず、五月○○日連れ戻しの上再度父の許に帰し○村製作所に就労させていたところ、同年七月×日又も家出して保護者の正当な監督に服さなかつたものである。少年の知能は普通域にあるが気分の不安定性が高く、些細な刺激に敏感に反応し、逃避的攻撃機制を働かせ易い。父親への親和感が薄く、欲求の抑制力が弱いため、父親、保護司の指導下では矯正は困難でありこの際施設に収容し社会性の訓練を施すのを相当と認め、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第三項を適用し、なお押収賍物の還付については刑事訴訟法第三四七条第一項により、主文のとおり決定する。
なお犯罪者予防更生法第四二条第三項の規定は、少年が二〇歳を超えた後にも少年院に収容することを要することが、保護処分の決定時において明らかな場合にのみ、収容期間の指定を要求したものであつて、本件にはその必要ないものと認め、同項の規定による収容期間の指定はこれをしない。
(裁判官 境野剛)